2014年10月17日金曜日

なぜ教師には残業代がないのか?

どうやら、日本の教師は忙しすぎるようで、中学校の先生に至っては部活動という特殊な仕事のために、勤務時間が超過し過ぎていると、ニュースになりました。

ちなみに部活動で休日出勤したときの手当は一日でも数百円です。

基本的に教師には残業代がありません。私立のことは分かりませんが、公立ではありません。

勤務時間を超えて働く教師がほとんどのはずなのに、残業代はないのです。

なぜか?

公務員だから?
教職は聖職だから?
全員に残業代を払うと税金がいくらあっても足りないから?

色々言われているのですが、最大の理由は、「残業ではない」からです。

ブラック企業だの、ダンダリンだの労働条件に関しては昨今はニュースも話題も多いので、改めていうことではないのですが、残業とは、

・上司や管理職が組織や会社のために必要であると認めた業務であること

・上司や管理職の指示のもとに行う業務であること

…ような仕事のことを言うらしいのです。(細かい言葉遣いは違いますね。でも意味は間違っていないはず)

さて、教師の残業はというと、ほとんどが自分の判断で居残っているのです。上司や管理職の指示ではありません。

だって、まず上司や管理職は教頭と校長しかいないのですから、ヒラ教諭が自分のクラスの仕事のうち、何をどこまで進めているのか、なんて把握しちゃいられません。

授業の準備、ワークシートの作成、漢字練習帳の丸付け、テストの採点、作文の添削、、、など、管理職はノータッチです。

教師が「明日までにやらないとマズイ」と自分で判断すれば、残業するのです。そこには、組織のために必要だとか、上司が認めるとか、そんな手続きはありません。

つまり、自主的にやる仕事のため、残業の範疇には入らないのです。ま、教師たちは残業だと思っていますし、「残業代なんて出ないのにみんな頑張るねぇ」なんてグチりながら、自分たちは残業をしていると思っています。

採点も授業準備もワークシート作成も、ひょっとして仕事をテキパキとこなし、スキマ時間を有効利用することができる人ならば、残ってやる必要がないかもしれません。
残ってやる人は、ただ単にダラダラとやっているだけかもしれません。

なんか、どこかで聞いた話だなと思われた方は、そうです、昨今、ホワイトカラーエグゼンプションで騒がれていることが、なんと、何十年も前から教師には適用されているのです。しかも、年収が300万円くらいだったとしても、です。

労働時間あたりの質を上げろ!

なんて、本当は教師に聞かせなければならないのかもしれません。
教師は日頃、費用というものを意識することがほとんどありません。コスト意識は低いです。自分の年収が、仮に500万だとしても、保険や環境設備維持を含めれば、その人にその倍の1000万くらいかかる、ということを知らない教師は少なくありません。

しかし、教師に残業代がない本当に大きな理由は、実は、自分で判断して残って仕事をするから、ではありません。もっと、決定的な理由があります。

それは、教師は自分たちで仕事を増減できる、ということです。

日々の仕事における決定機関は、同じ学年や教科ごとに編成された学年会議や教科会議と呼ばれる5〜6人の打ち合わせです。
また、それとは別に行事や全校に関わる問題を扱う部会があります。基本的には、各学年から1〜2名ずつ出席して、職員会議の議案を事前検討する、といった役割を負っています。

それより、大きなものは職員会議です。

それら、大小の会議は、ヒラ教諭によって構成されています。そして、最高決定機関である職員会議は、基本的に全員が出席して意見を言う非効率なまでに民主的な会議です。

何を言いたいのか、もうお分かりだと思いますが、教職という仕事は、私の知る限り、教師が仕事を減らそうと思えば、減らすことができるシステムをとっているのです。
提案するのも、決定するのも自分たちなのですから。

例を挙げます。

昨今、全国の小学校には、業者テストというものが広まりつつあります。学力調査ではありません。

学校のテストのことです。

小学校のテストといえば、先生たちが作るものでした。手書きにしろ、タイプライターにしろ、またパソコンにしろ、先生たちが手作りしていました。もちろん、今も手作りしている先生方や学校も数多くあることでしょう。

テストを見れば
「ああ、これは○○先生が作ったな」
と子どもたちでさえ、分かることも多かったと思います。

しかし、今は、教材会社の作るテストを購入し、子どもたちを評価する学校も増えてきています。

一年分のテストを前もって購入するのです。そして時期が来れば、それを一枚ずつ子どもたちに取り組ませるのです。

なぜ、そんな業者テストが広まりつつあるのでしょう?

理由1
学力調査を念頭においているから。

業者テストは、教科書はもちろん、毎年の学力調査の出題傾向を分析して作られています。教師がする分析よりもはるかに精度が高いと言わざるを得ません。学力調査で好成績を収めるには、効果があるとしている学校もあるでしょう。

理由2
教え漏れ、を防ぐため。

教師は教科書を最低基準として教えることが求められています。しかし、人間ですから、教え漏れが発生することがあります。そんなときは、後に教え直すとしても、テストからは除外しておこうか、となりがちです。その点、業者テストを事前にチェックしておけば、教師は教え漏れを防ぐことでき、テスト問題の質を全国レベルで揃えることができます。

理由3
教師は多忙であるから。

教師の忙しさは過去に何度も触れています。
「なぜ教師は心を病むのか」
「教師はなぜ忙しぶるのか」
などを読んでいただければと思います。
つまり、これはアウトソーシングです。テスト一枚作るのに、2時間も3時間もかけ、それをまた他の先生がチェックして、修正し、印刷する、という手間ひまよりも、教師の本分である授業を工夫すべし、というわけです。

そんなわけで、テストを手作りする作業をアウトソーシングするかどうかは、誰がきめるのかというと、管理職ではなく、教師全員で職員会議できめるわけです。

推進派は上記のような理由を並べ立て、反対派も同じくらい理由を言って、最後はたいてい多数決です。

ですから、仕事を減らすのは教師自身なのです。

仕事量を自分で裁量できる人間たちが、さらに自己判断で超過勤務をして、それが果たして残業に該当するでしょうか?

教師が労働基準監督署に駆け込んだら、監督官は調査に入るでしょうか?

無理でしょう。

きっと言うはずです。
自分たちでまず仕事を絞りなさい、と。労働環境を自ら改善するのは労働者の義務です、とかかんとか。

教職員の組合員のみなさま、今のシステムではいくら活動したって、残業代は勝ち取れません。

残業代がほしいなら、多数決ではなく、トップダウンを採用すべきですし、トップダウンが許せないなら、残業代は許されません。

ですから、所属する組合が異なろうが、非組合員だろうが、非常勤だろうが、みんなで知恵を寄せ集めて、仕事を精査して、減らしましょう。

せっかく、私たちには決定できるシステムがあるのですから。