教師は激務である
という論調もひととおり落ち着いて来たように思います。もちろん、教師が暇になったわけでも、抜本的解決がなされたわけでもありません。
ただ、メディアも世間もそして教師自身も、教師の働き方が合理的ではなく、そして現代的ではないと認識し終えたのだと思います。
私の学校だけでの話ではないと思うのですが、ここ2,3年でのスクールカウンセラー(SC)の仕事量が跳ね上がっています。
少し前までは、教師たちがSCへの依頼の仕方が分かっていなかったのもあるでしょうが、SCの先生の面談予約が取れない、なんてことは聞いたことがありませんでした。
SCの先生は、臨床心理士であり、発達に遅れがあったり、学校に馴染めない児童や保護者の相談に応じ、教師との橋渡しをするのが主な仕事だと思うのですが、週に1,2回学校へ来て、各教室を見回り、たまに面談をし…ということをしてくださっています。
が、去年くらいから、その面談予約が取りにくくなってきたのです。
私の学校では1ヶ月待ちなんてザラです。ひどいときは、3ヶ月待ちです。
別段、ひどいというのは混み具合のひどさであって、子どもの様子や教師の悩み具合の話ではありません。
もちろん、週に1,2日しか機会はありませんし、焦ってこなすようには面談できませんので、時間はかかるのですが、それにしても、そんなに面談件数が増えてきている、ということは、いったい何が起きていると考えればいいのでしょう?
教師のみなさん、いかがでしょう?
同じような状況ではありませんか?
一つは、SCという制度が学校へ馴染み始めたと言えるのかもしれません。導入当初は、いったいSCに何を頼めばいいのか?と戸惑い、遠巻きに見ていた教師たちが、SCの先生方が子どもの話も、親の話も丁寧に聞くことで、次第に子どもたちが落ち着いていく、というケースを何度も目にしたからではないでしょうか。
SCの先生たちのカウンセリングは、教師ではなかなかできないレベルのものだと教師たちが分かってきたのだと思います。
「この子の対応が難しい」
と感じ、かつ、保護者から
「先生、どうしましょう?」
と相談があれば、SCのカウンセリングを勧めるという流れが出来てきたのでしょう。
いくら教師が困っていたとしても、保護者が困っていない場合に
「カウンセリング受けられては?」
と切り出すことは、難しいですが、本当に対応が難しい場合は、校長や教頭、保健室の力を借りてでも、SCへつなごうと努めるようになりつつあります。
逆に言うのならば、SCの仕事量が増えた理由は、
教師が安易に丸投げする
からかもしれません。
教師は多忙です。
放課後の忙しさについては以前にも書きましたが、個別に指導しなければならないことや、保護者を呼んで話をしなければならないことが突発的に起きれば、なおさらです。
友人関係でトラブルが絶えない児童がいて、保護者も困っているようなら、SCの面談予約をとりあえず取り付け、対応を任せるということがあり得ると思います。
それで一応、学校としては対処しているという体裁も整います。
もちろん、教師には手に余る昨今の学校の状況を鑑みて、SCの制度ができたのですから、SCの先生には教師を助けていただきたいです。
しかし、何でもかんでもSCへ、ということになってきたのではないかと心配もするわけです。私としては。
そして、教師がSCを頼るのと同様に、保護者のみなさんもSCを頼ります。
これは、教師の質の低下、と関係があります。
教師のレベルが実際に下がっているかどうかは分かりません。それは、ここではおいておきます。
世間が考える教師の質
が低下しているのです。
小学校教員免許など、国公立や名門私大でなくても取れます。短大だって取れます。学生時代に取れるのに取らなかった人たちが親になっています。
お父さんはもちろんですが、お母さんもフルタイムで働くのが当たり前になると、教師の出すプリントや学級通信に載る文章のレベルやパソコンスキルを、自分の仕事と比べてしまいます。
もちろん、教師の質と免許はさほど関係ないでしょう。パソコンスキルなんて、なおさらです。英語力もしかり。
しかし、民間で働くお父さんお母さんは、嫌でもパソコンスキルや英語力を磨かねばならない時代なのです。そして、それを身に着けています。
そりゃ気になるでしょう。
学級通信のレイアウトやワードアートの使い方が。読みにくい改行位置が。
子どもから伝え聞く英語の時間での先生の英語力が。
教師の指導力には直接、関係ないことでも、比べやすいところを人は自分と比べます。
(もちろん、パソコンスキルも英語力も教師だってあった方がいいでしょうが)
すると、昨今のお父さんお母さんにとって、教師のレベルは下なのです。教師の質は低下していると「思われている」のです。
ならば、小学校教師のいうことにもはや説得力はありません。「教師」という肩書では、説得力がないのです。
子どもの不安に気づく。
トラブルを未然に防ぐ声掛けをする。
「できた」の自信を付けさせる。
…などの、指導力は見えにくいのです。
パソコンスキルや英語力なんかより、小学校では、はるかに大切な教師の質ですが。
見えやすいスキルが質となって、保護者の目に映っているのです。
つまり、教師じゃ話にならない…
…じゃ、臨床心理士なら…
という時代が来たということです。
臨床心理士であるSCは、話すことに説得力があり、保護者にとってその話は聞く価値があるのです。そのアドバイスは、教師のそれより力があるのです。
もちろん、実際にSCの力は大きく、教師を助けてくれています。何もSCはその資格によるイメージだけの力ではありません。
しかし、そのイメージの力は大きく、多くの保護者は、教師の話などそっちのけになる場合も少なくありません。
…ならば、教師も困ったときの神頼みかのように、案件を丸投げするようになったのではないかと思います。
SCの先生方、
これからしばらくはお力を借りることが多くなると思います。
「それくらい、担任で対応してよ」
と思われるケースが多いと思いますが、それでも可能な限り教師と保護者を、そして何より子どもたちを助けてやってください。
保護者の中には(ひょっとしたら教師の中にも)、カウンセラーに相談したら、今の問題のあれこれを一発解決できる素晴らしい方法が見つかると過剰な期待を持っている場合もあるかもしれません。
また、時間や手間をかけたのに、お礼の一つどころか、恨み節しか残してもらえない場合もあるかもしれません。
それでも、私の数少ない経験ですが、SCの先生に相談することにより、日に日に顔が明るくなった子どもや、子どもを一歩引いて温かく見守ろうと努め始めた保護者の方を何人か知っています。
SCというシステムが今の子どもたちを救うベストの方法かどうかは分かりません。しかし、対処療法的であったとしても、現在はSCの力に頼って学校は回っています。
学校と保護者、そして子どもの真ん中に立って、すべての話を聞き、コミュニケーションを取る大変なお仕事かと思いますが、頼りにしている教師がたくさんいます。
よろしくお願いします。
私は…丸投げにならないようにします!