2013年9月29日日曜日

教職はワークシェアできるのか?

休みが取れない。
有給が溜まっては消えて行く。
定時に帰れない。

そんな悲鳴が聞こえる日本の職場です。ベルギーではサマーバケーションが二ヶ月あるなんて話を聞くと、ますます泣きたくなります。

もちろん、それは教育現場も同じで、教師は基本的に月曜日から金曜日は休めません。担任の代わりがいないからです。中学や高校のように教科担任が入れ替わり立ち代わり授業をしてくれれば、子どもたちへの影響はあまりないかもしれませんが、小学校では大変です。

小学生は、今日は先生がいないから一日中子どもたちだけで自習なんていうわけにはいきません。
少しでも時間の空く先生をかき集めて、なんとかして朝から帰りまで教室に一人は教師がいるように計画を立てます。
みんな自分のクラスや授業がありますから、これはなかなか難しいことなのです。ときには教頭や校長もかり出されます。

誰かが熱を出したり、体調を崩したことが朝に分かると、子どもがくる前にバタバタとこの作業をします。
困った時はもちろんお互い様なのですが、この様子を見ていると、「そう簡単には休めないなあ」と思わされるのです。

ですから、もし自分が出張で学校を開けるときは、事前にこの作業をすることになります。

図工や音楽などの専科の先生の授業を入れてもらったり、他のクラスと一緒に体育をしてもらったり、まあ、1時間くらいは自習でも仕方ないかと諦めて、となりの教室の先生に「ちょっとのぞいてやってください」と頼んだり。

お互いさまなのですが、気を遣います。
小学校教師に取って空き時間は貴重です。
学校によってまちまちかとは思いますが、私の場合で申しますと、一週間に子どもたちの授業は平均28コマ(1コマ45分)あります。
そのうち、私が授業するのはだいたい25コマです。つまり、3コマは専科の先生が授業をしてくれるので、空いていることになります。

この3コマはとても貴重なのです。テストやノートを丸つけたり、プリントを作ったり、休み時間だけではできないことをやる唯一の時間なのですから。

この3コマが潰れるのは痛いです。教師ならみんなそう思っているはずです。でも、同僚が病気なら仕方ありません。

しかし、有給を取って旅行となるとどうでしょう?
自分の貴重な時間を快く差し出すことができるでしょうか?

いや…嫌がられるだろうな…

と誰しもが思うので、誰も有給なんて取りません。

教師の有給休暇(年休と言います)は、消化されずに溜まり、そしていつの間にか消えて行きます。

病院に行く時や自分の子どもが熱を出した時に刻んで数時間ずつ取るくらいです。

あとは、子どもが学校へ来ない夏休みや冬休みに数日取れることがあります。しかし、そんな時期も代休消化で終わってしまうことが多いのが実状です。

休日出勤の研修会やナントカ大会があれば、代休も溜まります。さすがに代休は消化すべく管理職のチェックがあります。

というわけで、毎年、私は3、4日しか有給を使いません。使えません。


さて、ちょっと前段が長くなりましたが、こんな休めない現実を解消するべく、ワークシェアリングを教育現場で考えてみます。

ワークシェアリングとは言うまでもなく、仕事をシェアするだけではありません。給料もシェアすることになります。つまり、ワークシェアリング導入によってコストが上がらないことを目指さなければなりません。そうでなければ、この財政緊縮の時代にどだい実現不可能な言葉遊びになってしまいます。

まず、教師3人の仕事を4人でやることを考えてみます。

もっとも時間が欲しい子育て世代を想定して、既婚30代で年収500万円をモデルにします。
3人で年収合計は1500万円。これを4人でシェアすると、一人分の年収は375万円。
世帯年収が、100万円以上落ちるのはツライですが、共働きなら暮らしていけない額ではないでしょう。シングルインカムでも、工夫次第でなんとかなるかもしれません。

では、仕事量はというと、単純に年間240日働いたと仮定して、3人で720日。これを4人でシェアするのですから、一人あたり180日勤務となります。

一ヶ月平均15日、一週間に3日か4日の勤務となります。

または、きちんと一週間に5日間勤務をすれば、年間9ヶ月間の勤務となります。

週休3日か、長期休暇3ヶ月か。

ワークシェアリングによって、こんな働き方が可能になります。父親の育児参加も、社会人の長期ボランティアも、観光のピークシフトも促進されそうです。

しかし、残る問題もあります。3人の仕事を現実的にどうやって4人で分けるか?という問題です。

まず分かりやすくするために、1学年3クラスの学校を想定します。つまり、1年生ならば、1-1、1-2、1-3があるわけです。普通ならば担任をもつ先生は3人です。

しかし、ここに「学年担任」を1人追加します。この教師はいわば、担任が休んだ代わりにすべての学級に入り、授業をします。

例えば週休3日では、
1-1は月曜日は担任が休み。
1-2は火曜日が担任が休み。
1-3は水曜日が担任が休み。
学年担任は木曜日が休み。
金曜日全員出勤して、来週の打ち合わせ。

こうすれば、3人の仕事を4人でシェアすることが可能です。
もちろん、連絡や引き継ぎをうまくしないと子ども同士のトラブルや保護者対応に問題が出る心配もあります。とはいえ、心配ばかりしていても休みは取れないのです。

別パターンを考えてみます。
長期休暇を取る場合です。

まず、3人のクラス担任と学年担任は、4、5月は全員出勤して児童との人間関係を作ります。

そして6、7月は1-1担任が休みます。1-1の1学期の通知表は学年担任が付けることになります。

8月は全員が現状のようにお盆+αの休みを取ります。

1-2の担任が9、10月を休む。
学年担任は11、12月を休む。
1-3の担任は1、2月を休む。

そして3月は全員で締めくくります。

こうすれば、全員が2ヶ月の長期休暇と8月の休みを取れることになって、ほぼ合計3ヶ月の休みになります。続けての3ヶ月は難しいですが。


というように、理論上はいけますが、実際問題、こんなに担任が休んだり、学年担任が出たり入ったりして、子どもが落ち着いて授業を受けられるか、教師も腰を据えて教材を教えられるのか、ということを考えなくてはいけません。

また当たり前ですが、一学年3クラスの学校ばかりではありません。クラスが少なければ、学年をまたいでワークシェアをすることになると思いますが、それが果たして可能かどうかはやってみなければわかりません。

業務をスリム化し、必要以上の報告書や会議を減らし、教師間の意思疎通や意志統一を図れば、難しいことかもしれませんが、導入の価値はあると私は思います。

もちろん、「休む」=「サボリ」、「休む」=「無気力」のようなイメージが子どもや保護者に持たれないようにすることも大切です。
ワークシェアリングをすることにより、また休むことにより、仕事上、教育上のプラス面があることを伝える必要があります。

多くの教師が子どもたちを見ることができるということ。
教師に精神的余裕が生まれるということ。
子どもたちも多くの教師の授業を経験できるということ。
評価が客観的になること。


どんなことにもメリット・デメリットがあります。

精神的疾患により、療養休暇を取らざるをえない年間5000人以上の現役教師。
産休や育児の後に教職復帰をしたいけれど、完全にフルタイムを独身教師たちと同じようには働けないお母さん先生たち。

そんな人たちのために、ワークシェアリングはきっと有効なはずです。
日本の教育現場にとっても、潰れていく人材や隠れた人材を活かすことができるのです。


バリバリ働いてお金を稼ぎたい。
実績を作ってキャリアアップしたい。

そんな思考の人はまず教師にはならないでしょう。民間企業で、外資系で、貪欲に働くはずです。

教師を目指す人のほとんどがどちらかといえば、冒険や賭けよりも安定や堅実を好むタイプなのではないでしょうか。

だとすれば、教師という職業はワークシェアリングをもってして、自分が息切れすることなく、また少子化社会に食いっぱぐれることなく、むしろ輝きを増して一生の業となるのではないでしょうか。

まず、ワークシェアリング導入試験校を設定し、募集をかけてやってみるべきです。

子育て世代の教師。
体力的に辛くなってきた年配教師。
社会に出て5年前後の「見つめ直し」世代教師。

そんな彼らからの希望が多くあると思うのですが…どうでしょう?